VDF会議記録

産業専門家意見交換会No.6

マスタープラン作成手順改定の可能性

 

ハノイ、20061月18日

 

20061月18日、ベトナム開発フォーラム(VDF)にて、ハノイ在住のJICA専門家を中心に、上記テーマにつきインフォーマルな意見交換会が行われた。これは、12月2日の第5回会合における議論をさらに掘り下げるものである。

 

<出席者>

市川専門家(MPI)、高橋専門家(電子/MPT)、唐沢所長(JBIC)、生島(おじま)駐在員(JBIC早川氏後任)、大野(VDF)。

 

<議論要約>

 

電子マスタープラン支援作業の状況を中心に、他のマスタープラン作成も念頭において、現在の問題点および解決法が自由討論された。とりわけ日本の支援枠組を利用して改善に結びつけられないかにつき議論した。

 

1.マスタープラン策定支援上の困難

 

(省略)

 

2.一つの改善提案

 

前回会合の議論を踏まえ、ある専門家から事前に以下のような提案があった。

 

ベトナムのマスタープランは他国と異なり、民間に政策を示すものになっておらず、政府(首相)に向かっておこなう政策提案にとどまっている。また省庁間の壁が厚く、MOIやMPTは自省管轄以外の事項(優遇税制、技術基準、教育改革など)にタッチできない。これに比べてタイやマレーシアでは省庁間の壁は低い。以上の理由から、ベトナムのマスタープランは数値目標と抽象表現を混合したものに終わっている。

 

この現状を前提として、既存の起草過程の中に、民間意見の聴取と省庁間の調整の2点を制度化するステップを追加してはどうか。具体的には、以下の7ステップを提案。

  ①担当省庁が草案作成

  ②民間企業の意見の聴取

  ③民間意見を織り込んだ「政策案」(関税改定、訓練施設強化、再投資控除などのレベル)を作成

  ④「政策案」につき該当省庁と意見調整。合意できたものについては「具体的政策案」に踏み込み、合意されないものについては③のレベルにとどめる。

  ⑤最終草案について民間の理解を求める。継続的に交渉が必要な案件の明示。

  ⑥首相府へ最終草案の提出。

  ⑦政府承認が得られれば、実行計画の作成に入る。

 

またマスタープランの中身も、その産業について中央政府の理解を深めるための教育的内容、(事前に察知できる反論に対し)中央政府を説得できる議論、中央政府が関連省庁に制度・政策の再検討を促す内容などを盛り込むべきである。

 

3.包括的マスタープラン策定の可能性

 

上記案は、現状を否定せずに改善を追加する現実的なものだが、より大胆な改革の可能性についても議論された。

 

それは、現在のように個々のマスタープランをばらばらに作成していては、工業全体の方向性、産業間の優先順序・関係、および共通課題(裾野産業、優遇税制、人的資源など)と個別産業の係わり合いが見えてこない。また少人数の担当チームを個々に支援しても、彼らの能力・時間に制約があり、知識・方法論が政府内に拡大・普遍化しない。ゆえに、現行担当者よりもハイレベルをターゲットし、新メカニズムを導入してこれらを突破すべきであるという考え方である。

 

具体的には、マレーシアの工業マスタープラン(IMP)を構成案のモデルとし、工業全体のマスタープランを1つ作成する。最初の数章で全体戦略を提示し、残りの10章程度で共通課題と各産業戦略についてそれぞれ記述する。既存の個別産業マスタープランは、単一の工業マスタープランの該当章へと「発展的解消」させる。

 

[参考までに、マレーシアIMP2(1996-2005)の章構成は、概論、クラスター発展戦略の提示、電子電機、繊維、化学、資源産業、食品加工、輸送機械、マテリアル産業、機械、戦略方向性、制度枠組の12章からなる。いっぽう現在作業中のIMP3(2006-2020)の章構成は未公開だが、実行部隊から察するに、概論、マクロ枠組、貿易、投資、中小企業、人材育成、技術・ICT、マーケティング・ブランド、ロジスティックス、業種別発展、サービスからなる予定である。IMP2は部門別志向が顕著だったが、IMP3はより機能別の章立てになると思われる。]

 

これを策定する組織は3層構造とする。まず上部に、大まかな方向性をもって作成命令を発し、成果を受け取る最高権限組織(A)があり、次に立案・起草・調整を実際に指揮する活発なセクレタリアート的組織(B)があり、最下層に各章のドラフティングを担当する実行部隊(C)がある。起草者選定、リサーチアシスタント等の雇用、ローカルコンサルの利用、サブグループの形成などは各実行部隊に任され、必要に応じて予算も配分される。IMP3作成では、マレーシア通産省(MITI)が所轄官庁であり、全体で数百名が動員されている。(A)はIndustrial Planning Committee、(B)はSteering Committee、(C)はTechnical Resource Groupsと呼ばれているが、呼称はベトナムに合うようにかえてかまわない。

 

ベトナムがこのような内容構成・組織構造を実現するには大きな変更を伴い、ボトムアップではできないが、トップからアプローチすれば不可能なことではない。むしろ現状の個別マスタープラン方式が明らかに壁にぶつかっている今、新方式を模索する方が成果が期待できる可能性さえある。ただし、具体的な組織のデザインについては、十分検討する必要がある。マレーシアでは省庁間・民間との意思疎通がすでに活発だが、ベトナムではそのメカニズム自体を創造していかなければならない。この組織提案は、むしろそれを促進するためのツールと考えなければならない。上部(A)の政治・外交的位置づけに留意すべきだという意見もあったが、下部(C)で実際にどうやって書くかが重要だという見解もあった。

 

この提案を考えるに際しては、いくつかの動きを念頭におく必要がある。VDFには、MOIから複数のチャネルを通じて政策支援の要請が届いている。そのなかには、工業戦略政策研究所による起草ではなく、外部者と連携しながら作成する新方式をパイロット的に打ち出したいという声も一部にある。日本側をみると、日越共同イニシャティブ・フェーズ2において産業政策グループが形成されつつある(ただし日本商工会メンバーからなるこのグループは、上記(A)(B)(C)のいずれにも直接にはなりえないであろう)。また経済産業省がMOIとのコンタクトを始めており、共同ワークショップが企画されつつある。またいうまでもなく、JICA専門家をはじめとして既存の支援案件がすでに多数動いている。

 

日本側もベトナム側も、これらの動きをばらばらに進めるのではなく、良質のマスタープラン起草という共通目的にむかって、協力的・補完的に作業していくことがきわめて重要である。

 

4.その他

 

別の提案として、優遇税制検討が提示された。これは、さまざまな産業にわたって要請されるであろう優遇税制に関し、実際にどの程度のネットの影響があるのかを概算する研究である。中身としては、優遇税制検討の根拠、他国との比較、国家に与えるプラス・マイナスの影響、外資増による国益シミュレーションなどが示されている。これについては時間切れで議論できなかったが、今後の検討課題としたい。

 

MOI工業戦略政策研究所(IIPS)において、二輪マスタープラン(担当者Nghia氏)を4ヶ月間支援してきた小谷専門家が1月25日に帰国となった。テト後の再訪越は予定されていない。短期間であり、十分な成果を生むまでにはいたらなかったが、二輪発展ビジョンに関する文書、二輪マスタープランへの勧告スライド、訪問企業の調査票、二輪関係パンフレットの集合冊子を作成された(VDFにあり)。帰国に先立って、1月18日にTuat所長、19日にNghia氏と会う予定となっている。

 

[文責・大野]